その1 Yitzhak | 怪盗オッタの日記

その1 Yitzhak

スウェーデンのストックホルム在住の友犬、Yitzhak。ブリヤードっていう種類らしい。Yitzhak(イットシャック)って名前は、よく知らないけどユダヤの名前なんだって。でも、人間のことばはスウェーデン語しか分からないみたい。

先月、イットシャックに大事な話があると言われてストックホルムへ会いに行ってきたの。用事があるならそっちがきなよ、って感じだけどあいつは普通の犬だからワタシみたいに自由に外出できないし仕方ない。ストックホルムはもう雪が降っていて、足が短いワタシにはちょっと辛い。まあ、移動は自家用車だから関係ないけどさ。

話っていうのは、何か縁談が持ち上がっているらしく近々ヨメをもらうってことだった。ご主人と公園を散歩中に出会って、一気に結婚まで話が進んだらしいんだよね。ブリヤードってめずらしい種類らしく、なかなか同じ出身の犬には会わないみたいだけど、ついに見つけたらしい。なに?のろけ話を聞かされにわざわざストックホルムまで来るはめになったわけ?って文句言ってやろうと思ったら、なぜか浮かない顔してんの。

『ちょっと、なんでそんなしょぼくれた顔してんの?』
『結婚するのはうれしいことなんだけど、オレにコドモがいること言ってないんだ。』

あ、そうか。イットシャックは若いころ、ご主人の友人の別荘へ遊びに行ったときにそこの住犬のセントバーナードちゃんと出会い、コドモ作っちゃったっていう過去があるんでした。お互い若かったってことで結婚もせず、コドモたちともそれっきり。
『オレのそんな過去を知ったらきっと彼女はショックを受けて、オレに失望しちゃうよ。オッタ、どうしよう。』

困ったなあ。ワタシ、怪盗だから恋愛している暇なくてそういう話に弱いのに...。でもね、大切な相手には正直に向き合わないといけなって思うの。

『イットシャック、この際だから正直に話したら?そんな昔のことにこだわる犬はいないよ。今が大事だし、これから幸せにしてやればいいじゃない。』

とりあえず、イットシャックを励まし、その日はご主人が留守だったから2人でワインを飲んで語り明かした。帰り際、お酒が入って吹っ切れたのか、イットシャックは勇気を出して彼女に話すって約束してくれたの。

そしたら昨日、イットシャックから結婚報告のはがきが届いた。彼女との仲良さそうなツーショットの写真付きで。
オメデトウ、イットシャック。